今年10周年を迎えるあざらしそふとと、来年20周年を迎えるLump of Sugar それぞれが記念イヤーを迎えるふたつのメーカーがタッグを組んだ最新作『きら☆かの』について、 メインスタッフである萌木原ふみたけ氏と保桜氏に制作を振り返りながら語り合ってもらいました。
――本日はよろしくお願いします。
保桜氏(以下:保) 対談とか初めてなんですけどよろしくお願いします。
萌木原ふみたけ氏(以下:萌) よろしくお願いします。
●その1 この企画が始まったきっかけ
保 これ、雑誌さんのインタビューではどういう風に答えているのか知らないので
僕の記憶ではって話になるんですけど。
萌 はいはい。
保 最初にあざらしそふとのあおきゅんさんから『萌木原さんのイラスト好きなんですよね』と話を振られて
そのまま『萌木原さんにあざらし作品の原画をお願いできないか』と相談されまして。
萌 あ、そうだったんですね。
保 はい。それで僕は過去にランプさんでお仕事をしたことがあるし、ちょうどその頃プライベートで萌木原さんと
飲みに行ったりもしていて、その席で『一緒に仕事したいねー』って話してたんですよね。
萌 ですね、こんなすぐに機会がくるとは思わなかったですけど(笑)
保 僕もそうで、でも『聞くだけならタダだろ』って感じでランプさんに連絡をとってみたんですが、 やっぱり自社の企画もあるので外部でフルプライス作品の原画を受けるのは無理だという返答をいただきまして。
萌 はい、はい。
保 そのときは『ですよねー』って感じだったんですけど、それからしばらくした後に あざらしから『10周年記念作品を作りたい』という話を振られて。 それなら原画さんでお願いしたい人は……って話になって、 再び萌木原さんの名前が挙がったんです。
萌 ほう、ほう。
保 で、それなら今度はきちんと作品の方向性やスケジュールなどがある程度は定まっている状態でご相談しようということで、
単独ヒロインのロープライス企画を立ててから連絡させてもらいました。
そしたら『これならいけますよ』とOKをいただいて。
萌 ほうほうほう。
保 で、まぁ個人的にはそれでなくても萌木原さんとはゲーム以外にも
同人マンガとかで一緒になにか作りたいねって話をしていたりもしたので、
そちらを始める前にお互いのモノづくりにおける足並みとかが合っているかどうか
確認してみたい気持ちもありました。
それらを考えても今回はご一緒出来て良かったなと思っています。
萌 そうですね、今までランプで保桜さんとは他のライターさんの企画作品ではご一緒したことはありますけど、 ちゃんと保桜さんの企画というものでは初でしたよね。
保 ですね。初めては恋想リレーションで、その次はコドモノアソビで。 ただどちらも萌木原さんの担当されてるキャラのシナリオ担当ではなくて。
萌 あぁ、そうでしたね。
保 そうなんです。その縁があって次は若葉色のカルテットで正式にシナリオに関わらせてもらって。
その後、しばらくの空白期間を経てからの『きら☆かの』でしたね。
萌 うんうん。
保 ランプさんとの付き合いも長いですけど、自分の企画作品を作るっていうことは考えていなかったので 今回はちょっと感慨深かったです。だから今日はこれを持ってきました。
※ 保桜氏の私物である萌木原氏の同人ゲーム「Purism×Egoist」(未開封品サイン入り)
萌 うおおおおお……!(笑)
保 これが頒布されたのが20年前ですからね。 それから少し後にニコニコ動画で『きしめん』弾幕をコメントしたりもしていました。 その当時は『このゲームの原画さんと一緒に仕事する』なんて思ってもいなかったですし、 自分の考えた話のヒロインを描いてもらえるとかも考えていなかったです。 人生なにが起きるかわからない。
萌 そうだったんですね。 いや、でもこれを持っているのはすごいなぁ。 懐かしい……あと僕の同人サークルも立ち上げて30年になるんですよ。
保 今年はいろいろな周年が絡んでいますよね。 あざらし10周年、ランプさんが来年で20周年で、僕とランプさんの縁が出来てからも10年で。 いろんな面でのメモリアルイヤーだったり準備期間の年だなって思います。
●その2 - 2つの“らしさ”に挟まれて -
――双方のメーカーらしい物語とキャラクターを作るうえで考えたこと、それぞれの解釈やこだわりは?
保 企画作りの段階で考えることが多かったです。 というのも、あざらしそふとの代表であるあおきゅんさんがファンタジー作品にピンとこない人なので。 だから彼の担当する企画は『アマカノ』とか『アイベヤ』みたいな現実世界が舞台のものが多いんです。
萌 あ、そういう理由があるんですね。
保 はい。でもランプさんといえばケモ耳の女の子じゃないですか。
なので非現実的な要素が絶対にある企画を立てなきゃいけなかったので『どうしたらいいんだろ』と考えました。
で、そのときに作業用BGMとして流していたVtuberのアーカイブを見て 『あ、ヒロインが配信者で、アバターがケモ耳とかならアリなんじゃ?』と思って、 それで今作の基礎を作ってみた感じです。
萌 そうだったんですね……企画書の時点でわかりやすくて『面白そうだな』って思いました。
でも、いままであざらしさんでケモ耳ヒロインがいる作品はなかったんですか?
保 あるにはあるんですけど、それはあおきゅんさんが担当していない作品ですね。 『おね→ショタ←おね』ってやつはヒロインの一人がケモ耳のお姉さんでした。
萌 へぇ~。 では、今回はあざらしそふとさんでは珍しいケモ耳キャラのいる作品になるんですね。 そしたらまぁちょうどよかったんじゃないかなって感じですよね。
保 そうですね。 ケモ耳娘に定評のある萌木原さんに担当してもらえたのもよかったと思います。
あとは原画とライター以外のスタッフさんも、主題歌の作詞作曲は最近のランプさん作品をよく担当されている逢瀬アキラさんだったり、 歌唱担当はあざらし作品の『アマナツ』などで関わっている夢乃ゆきさんだったりで、 パッと見では『どこらへんがコラボなの?』って思われるかもしれないんですけど、 コアなファンの方ほどランプっぽさやあざらしっぽさに気付いてニヤリと出来るんじゃないかなって思います。
●その3 - ライターから見たヒロインと、原画から見たヒロイン、それぞれの印象 -
・綺羅星月姫について
保 あざらしそふとさんのヒロインは基本的に胸が大きいですけど、ランプさんはぺたん系もいるじゃないですか。 なので、両ブランドのファンの方々に向けてそこらへんのバランスは偏らないようにしないといけないなとは考えました。 そういう点では、萌木原さんとは同じ方向を見ていたのではないかなと。
萌 ですね。 あざらしさんは大きい子が多いですから、月姫の胸は意識して大きくしました。
保 あれ、絶対に設定の数字より大きいですよね。
萌 はははは(笑)そうですね、当社比以上って感じにはなったと思います。
保 月姫の声を担当してくださった陽宮もみじさんも、収録のときにCGを見せると そのたびに「でっか!」と言ってましたよ。
萌 はははははは(笑) でも、デザインについては今回はギャルヒロインっていうことで、僕的には『キタ!』って感じだったんですよ。
保 今までのランプさんというか、萌木原さんが描かれたヒロインにはいなかったタイプですよね。
萌 そうなんですよ。ギャルらしいギャルっていうのはあまりなくて。
保 僕の知る限りでもいなかったですよね。 『遥か碧の花嫁に』のなつみとか近いかなと思いましたけど、 どちらかというとあの子は健康的な女の子って感じですし。
萌 ですね。あとは『コドモノアソビ』でみちるがいたけど、あれは僕が描いた娘ではないから。
保 そうですね。だから本当にギャルって感じのヒロインは月姫が初めてなのかもしれないです。 そう考えると、わりと今回は萌木原さんの新しい引き出しを作れたのかなって。
萌 そうですね。描いてて楽しかったです。
保 それなら良かったです。 ギャルヒロインが巷に溢れつつあるので、最初はちょっと奇抜なデザインでお願いしようか迷ったんです。 けど、他に奇抜なギャルがいないってことは、いま多く見かけるシンプルなギャルが ギャルのデザインとしての最適解なのかなと思ったんですね。 だから『萌木原ふみたけが描いたギャル』って感じを意識してもらえたらと思ってたんですけど、 バッチリとイメージが一致したものが来たのですごく良かったなって。
萌 保桜さんの書くキャラクター指定が外見に関することはあまり書かれていなくて、 その代わりにキャラの内面に関することがたくさん書かれていたんですよね。 それが今までご一緒したライターさんにはなかった部分でした。 参考として若葉色のカルテットのソフィアって伝えられたりもしていたんですけど、 そちらに引っ張られないよう、他の文字情報をメインでデザインを考えていきました。
保 僕は自分でシナリオを書くうえであったらうれしいなって情報はキャラデザ指定書にも書くようにしてるんです。 好きな食べ物とか、好きなファッションとか、好きな音楽とか映画とか。 なくてもいいけどあったら何か助けになるかもって思うんで。
萌 だからこそソフィアのままではなく、今の月姫になったんだと思います。
保 ソフィアに比べて髪のボリューム感が増えていたり、今風のデザインになってましたよね。
萌 そうですね。 わりとあざらしさんのユーザーさんの好みに寄せることも意識しました。
保 あと、今回月姫の服装でスカートを履いてるのって制服だけなんですよね。 メインヒロインなのに私服がパンツスタイルのみって新鮮かなと思って。 出来上がったデザインを見て、個人的には良かったなって思います。
萌 そうですね。こちらも新鮮にデザインが出来ました。
・煌樹キララについて
保 月姫が『あざらしそふとヒロイン』ならキララは『ランプオブシュガーのヒロイン』という感じでデザインしてもらいました。
萌 装飾多めにしましたね。
保 シナリオのキーワードに『理想の自分の演じ方』というものがあるので、 アバターに関しては主人公と同じようにまったく面影のない感じにしてもらいました。 声は月姫と同じく陽宮もみじさんが演じてくれてるんですが、良い感じに演じ分けてもらって。
萌 たしかに僕も聞きましたけど、良い感じでしたね。 やっぱり声優さんてすごいなぁ。
保 ただ、シナリオ上では月姫の状態での交流が多いのでキララメインで何かしらの追加ストーリーとかやりたいですね。 それにSNSとかでの反響を見るとランプさんのユーザーさんはキララが好みなんじゃないかなって感じでした。
萌 そうなんですね! ちょっと反響とかまだ見れていなくて。
保 SNS用のアイコンとかがないから、店舗特典のイラストとかを独自でアイコンにしてる方を見ますね。
Amazonさんの特典のギャルピースしてるキララとか。
萌 あー、なるほど……。今度ちゃんと見てみないと。
・深海海月について
――海月の初期案。 ほぼ決定稿と変わらず。
保 初めてデザイン見たとき『ズルいやん』って思いました。
萌 ははははは(笑)
保 だって、サブキャラだからってことですごくシンプルなデザイン指定でお願いしたじゃないですか。 なのに良い感じに陰のギャルになっているなって思って。
萌 陰のギャル(笑) でも海月は今までの僕の中にはなかった、描いたことのないキャラでしたね。
保 指定を出したときは『ねこツクさくら』の弥生が地味になった感じのイメージだったんですけど、 あの子よりジメジメしてますからね。
萌 そうですね。
保 なのにデザインがすごく良くて、その影響で最初に考えていたプロットから急遽内容を変えましたからね。
萌 (笑)やっぱりキャラのラフが出来上がってきたりで保桜さんもライティングに影響するとかあるんですか?
保 そうですね。僕は遅筆なのもあって気を付けてはいるんですけど、今回の海月のデザインはすごく影響でました。 ネタバレになってしまうので深くは話せないんですけど、当初より出番は増えています。 本当にこの子はこちらを狂わせてきました。
萌 デザインについては髪留めのアクセサリーとかトゲトゲじゃないですか? あれ出したとき『大丈夫なのかな』って思ってたんですけどOKでちゃって。
保 あれは僕はすごく良いなと思ってます。 もともと似合っているのもあるんですけど、キャラデザ指定書に海月の好きな音楽はV系って書いていたので。 『それならつけてるでしょ』って感じで、すんなりと受け入れられました。
萌 たしかに、そう書いてあったので『そういう小物がついていてもおかしくないな』と思ってデザインしました。
保 だからいいと思います。実際僕は好きですから。 いやほんとズルいですよこの子は。
萌 はははは(笑)
・主人公・葉隠譲について ――
保 一番リテイクお願いしたのが主人公ですよね。
萌 ふふふふふ……(笑) いや、主人公はすごかったですね。
保 最初は、ランプさん作品の主人公より少し幼めのデザインで送ってもらったんですけど 僕が納得できなくて。
萌 一番熱くなってましたよね。
保 すぐ返信してました。 仕事場からの帰り道で、スマホが震えたらすぐ壁際にいって他の人に見られないようにしながら確認して。 で、三回くらいデザインを変えてもらったけれど毎回『違うな~』って思ったりして。
萌 やりとりしてる中で保桜さんがめっちゃ盛り上がってるのがわかりました。 でもね、あれはリテイクなんて言い方しちゃダメです。 あれはブラッシュアップですよ。それによる化学変化です。
保 ははは(笑)
萌 いやほんと面白かったですよ。 最初はショタじゃなかったのにどんどんショタ化していく主人公。 描いてて楽しい。
保 でも、あれって別におねショタ作品にしようと思ってとかじゃないんです。 先ほども言ったように『理想の自分』がシナリオのキーワードだから アバターと現実が正反対っていう風にしたくて、それでいて交流を持つ前のヒロインに対しても 劣等感を抱きそうな設定ってなんだろうと思っていたら『女の子みたいな顔をした低身長の青年』だったんです。 だから本作はおねショタ作品ではないんです。
萌 なるほど。
保 でも、今回の主人公を見て萌木原さんとおねショタ作品作りたいなって思いましたね。
萌 僕もショタは任せてくれって感じなんですけどね(笑)
保 じゃあ次にやりましょう。同人とかで。
・キャラ造型に関して思うこと
保 僕、キャラは声がついて初めて完成すると思っているんですよ。
萌 それは僕もそうですね。
保 僕はこれまでもキャストさんに恵まれてるほうではあるんですけど。 今回の月姫とキララを演じてくださった陽宮もみじさんと 海月を演じてくださった天季ひよりさんは良い仕事をしてくださったなと思って。
萌 ほんと良かったですよね。 僕も声を聴かせてもらいましたけど、お二人とも良い感じに演じてくれて。
保 この二人(三人?)をお願いできるのはこの方々しかいないなって思いましたよね。
萌 うんうん。
・CGに関して思うこと
保 日常シーンでは萌木原さんの描くヒロインの魅力を損なわないように、 けれどHシーンに関してはあまりランプさん作品にはないような表情を見せることを意識しました。
萌 あれは描いていて良い感じだなって自分でも思いました。 今回の企画でほんとにいろいろ引き出してもらったなーって思いますね。
保 どのシーンもみんな良い感じなんですけど、僕は最後の月姫のHシーンの表情が『えっちじゃん』ってなりましたね。
●その4 最後に
・次にまたご一緒するならやってみたいことは?
保 海月をヒロインにした本作のifストーリーである『ジメかの』をやりたいです。
萌 それはね……キますよ……!(今日一番の力強い声で) いや、この子は本当に面白いので。
保 僕もそう思いますし、本当にやりたいですね。 体験版をプレイした人で、海月が気に入った人は最後まで好きなままだと思うので。
萌 ほんとね、やりたいですよ。(何度も深くうなずきながら)
保 じゃあランプさんの20周年記念タイトルを『ジメかの』にしましょう。 ああ、でも僕は他にも作ってる作品があるんですよね。
萌 それは……なんとか頑張ってもらって(笑)
保 来年中に発売ならなんとかなる……の……かな……。 まぁ20周年記念タイトルじゃなしにしても『ジメかの』は何かしらの形で作りたいですね。
萌 そうですね、CG集とか同人誌とかで。
保 あとは、18禁の短編百合作品とか作りたいです。
萌 百合ですか。
保 ええ、舞台設定とかも考えていて――。
以降、同性愛を扱ったエンタメに関する語りなので中略。
保 というわけで、ケモ耳は出せるかわからないですけど 萌木原さんはハツラツとした女の子と憂いを帯びた女の子の両方を魅力的に描ける方なので そんな二人の百合モノとか良いと思うんです。
萌 どちらも癖ですからね。 でも百合か……百合は難しいですよね。
保 精神的な繋がりのほうが強い印象ありますしね。 あと濃い関係にすればするほど悲恋な終わりが多いですし。 僕はそっちのほうが好みではあるんですけど。
・他に、コラボに限らず何かやってみたいって事はありますか?
萌 そうだなぁ……。
保 萌木原さんの企画作品っていうものは見ないですよね。
萌 そうですね。ゲームでは方向性が違うから、マンガでやりたいなってことはあります。
保 日常ものでいいなら、立ち食いそば屋巡りをする女の子たちの話とかやりたいですね。
萌 おお、それいいですね!
※以降、立ち食いそば屋に関する話が続くので中略。
●おまけ -
ぶっちゃけ、この対談をやってみてどうでした? -
保 萌木原さんはどうでした?
萌 僕も対談とかは初めてでしたね。
保 基本的に萌木原さんは雑誌のインタビューとかがメインですよね。
萌 そうですね。そういうのを答えるほうが多いです。
保 でも、雑誌に限らずこういう対談とかを読まれるのはコアなファンの方々だと思うので。 そういう意味では雑誌よりも制作の思い出として掘り下げた話が出来たのではないかなって思います。
――ありがとうございました!